PCに冷却ファンは必須の存在ですが、ファンを交換し回転数を最小限に絞った静音マシンとそうでないマシンとでは騒音に大きな違いがあります。「ファンの回転数を落とす」と聞くと冷却能力不足で熱暴走するのではないかなどと心配になる方も多いでしょうが、それなりの内部スペースが確保できているタワー型ケースならばファンノイズをほぼ無音まで落とすことはそれほど難しくありません。
試しにPCのふたを開けて軸受けを押さえるなりしてファンの回転を止めてみてください。あ、長く止めてると危険なのでちょっとの間だけね。止めたとき静かだと感じるとしたら、あなたのPCは静音化の余地が十分にあるといえます。
まずはPCに搭載されている冷却ファンの各種規格について覚えておきましょう。
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A.ファンのサイズ
CPUや電源、ケースの冷却・排気に用いられるファンは60mm、80mm、90mm(92mm)、120mmあたりのサイズが一般的によく使われます。外枠の縦横の長さがサイズだと思ってもらって構いません。
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左から60mm、80mm、90mm(92mm)、120mm |
ファンはほとんどのものが25mm厚ですが、電源やケースに組み込まれているものの中には特殊な薄型ファンが使用されていることもあります。
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B.軸受け
一般に耐久性ならボールベアリング、静音性ならスリーブや流体軸受けと言われていますが、筆者は自分の経験からこれらを購入時の判断基準にしていません。耐久性や騒音はモデルごとに大きく異なっており、更に品質にバラツキの多い製品だと個体差が激しく評価の定まらないものもあります。
稀に軸受け自体が発熱してしまう製品も見受けられますが、このようなファンは出来るだけ避けたいところです。
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C.風量
当然ながら回転数が同じなら直径の大きいファンや厚みのあるファンの方が風量を稼ぐことが出来ます。
風量の目安にはCFM(cubic feet per minute)という単位が主に使われ、この数字が大きい方がファンとしての性能が高いことになります。ただしメーカー毎に測定方法がバラバラなので、比較材料にするには同一メーカーのモデル同士くらいにしか使えません。
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D.静音重視・静圧重視
稀に静音重視モデル、あるいは静圧重視モデルと記載された商品に出くわすことがあります。並んで売られていることが多いので両者は相関関係にあるように勘違いされがちですが、静音と静圧に直接の関係はありません。
一般に静圧重視ファンの風の方が障害物のある環境に強いとされ、吸い込み・吐き出し口近くににケーブルやボード等が多くある部分にはこちらのファンが向いているようです。
一方でそのぶん送風効率や静音性が犠牲になっている可能性も考えられますので、エアフローの経路にあまり障害物がないなら通常タイプや静音重視タイプのファンを使用した方がいいでしょう。
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E.羽形状・材質
上記の静音・静圧にかかる部分もありますが、出ては消えてゆく変わり種ファンは羽形状・材質にオカルトとしか思えないような効果が謳われていることが良くあります。鵜呑みにするのはやめましょう。
筆者はさる知人より「恐らく扇風機か換気扇あたりが一番ノウハウが詰まってるんだから、あれっぽい形の選んでおけばハズレはねえよ」なる教えを受けて以来、迷ったときには”あれっぽい“形のものを選ぶようにしています。
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F.リブあり・リブなし
四隅の取付穴部分は裏表がフレームで一体になっている”リブあり”と、裏表にそれぞれただの穴が開いているだけの”リブなし”の二種類があります。
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リブあり | リブ無し |
一般にリブありの方が取り付けた時フレームが歪みにくいとされる反面で、後述する防振ダンパーが使用できないといった欠点もあります。
ファンの電源ケーブルはマザーボード上のファンコネクタに接続します。
通常マザーボード上には複数のファンコネクタが実装されていますが、コネクタの数やケーブルの長さが足りない場合は電源から出ている4ピンコネクタに変換ケーブルを噛ませて接続することも出来ます。
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標準的なファンコネクタ | 4ピン変換ケーブル |
コネクタ脇に書かれているCPU FAN、PW FANなどといった表記は温度管理ツールで表示される項目と対応します。ただそれだけのものなので適当につないでしまっても実用上の問題はありません(ツールで見たときにCPUファンとケースファンの回転数が逆になっていたりなど、ちょっと見た目が変になる可能性はありますが・・・)。
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マザーボードの中には上述の3ピンファンコネクタの他に4ピンのファンコネクタを備えているものがあります。
4ピンのファンはマザーボードやCPUに内蔵された温度センサーと連動して回転速度の自動制御を行うことが出来るのが特徴で、その制御方式からPWMファンと呼ばれます。
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4ピンのファンコネクタ | 4ピンファンを搭載した Athlon64リテールクーラー |
4ピンコネクタに3ピンファンをつないで使うことも仕様上許されており、そのため4ピンファンコネクタの爪は中心から少しずれています。この場合回転数の自動制御機能は効かなくなりますが、ASUSのQ-Fan Technologyのようにメーカー独自の制御機能を備えたマザーボードもあります。
冷却ファンがまき散らす騒音は通常PC全体の出す騒音の大部分を占め、大きく分けて「風切り音」・「振動・共振音」・「軸受け音」の3つに分類できます。これらに対策を施すだけでPCの静音化は大きく前進することでしょう。
基本はファンの交換や低速化になりますが、空気の流れを整えてやれば思い切ってファンレス化したりすることも可能です。
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A.風切り音
風切り音はファンが高速で回転するときに出る音で、ファンの回転数を落としたり風切り音の出にくい形の羽を装備したファンに取り替えることで軽減できます。
ただ実際には羽の形状のみで風切り音を軽減することは難しく、筆者自身様々な製品を試してみたものの劇的な効果を得られたことはありませんでした。静音化は回転数を落とすことを最優先にした方が効果的なようです。
回転数を落とせば当然風量・冷却能力も落ちます。大口径で厚みのあるファンに交換して風量を稼ぐか、ケース内部の風流を考慮した配置にしたり、排気ダクトを設けるなどしてより効果的な冷却を工夫する必要が出てくるでしょう。
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B.軸受け音
動作中に軸受けから常にジジジと異音を放つような粗悪ファンは市場で見かけることもほとんどなくなりました。しかしファンコントローラーなどを使って規定以下に回転数を落とすと音を放つようになるものは未だによくあります。
一部に流体軸受けを使用している点を売りにした製品もあるものの、それが絶対的な解決になるかというと決してそうではありません。軸受けがどうあれ鳴るものは鳴るし鳴らないものは鳴りません。
軸音の悪化はファンの劣化を示すバロメーターです。劣化したファンは振動の原因ともなりますので、軸音が耳に付くようになったものは早めに交換しましょう。
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C.振動・共振音
ファンはしっかり固定してやらないと振動して音を出します。あまり強く固定すると今度はケース全体を共振させます。アルミ製などに多い板厚の薄いケースでは共振がひどくなるため、こうしたケースは購入時点で避けたほうがいいでしょう。
それでも共振してしまう場合はフレームの裏側に薄い鉛の板を貼って重さをつけたり、ケースとファンの間にクッションを挟む、あるいは取り付けに専用の防振ダンパーを使用することでもある程度の改善が期待できます。
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一部のファンに付属する防振ダンパー |
振動の強弱もモデルごとに異なりますから、あまり振動がひどいようならさっさと交換してしまうべきです。
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D.ファンガードの風切り音
意外と無視できないのがファンガードの風切り音で、特に鉄板を打ち抜いたタイプのファンガードは風切り音の元となるうえに風流の妨げともなります。
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打ち抜きのガードは改善ポイント |
可能ならば金切りばさみ等で切り取ってワイヤータイプのものに交換するといった処置を行ってください。
以上、ファンの基本についてわかりやすくまとめてみたつもりですが、こう書いている自分自身実際に使ってみたファンは数十を下らず、がらくた箱には大量のファンが眠っています。
ここに示したファン選びはPC静音化の第一歩であり、この先にはケース全体のファン配置見直しや回転制御の設定など奥深い(そうでもないか?)静音PCの世界が広がっています。
そう、ここからが地獄だ!
・・・数十もファンを買わされている時点で既に地獄にはまっているような気がしないでもない。